#FalettinSouls 2021-02-05 D’angelo

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  1. D’angelo. Devil’s Pie – A Cappella. 2008.
  2. D’angelo. Shit, Damn, Motherfucker. 1995.
  3. D’angelo. Chicken Grease. 2000.
  4. D’angelo & The Vanguards. Sugah Daddy. 2014.
  5. D’angelo & The Vanguards. Betray My Heart. 2014.
  6. D’angelo. Left & Right Pt. 1. 2013.

【朝】

おはようございます。金曜日ですね、明日から休みの人も明日がしごとのひとも、倒れずやっていきましょう。今日は毎週金曜の単一ミュージシャン特集、渾身のディアンジェロ特集。この「渾身の」とは「選出にあたり1週間試行錯誤した」くらいの意味です。

【夕】

今週金曜日はディアンジェロの日です。先週の星野源特集 で第一世代ネオソウルの話をしながら、肝心のネオソウルとはなんぞや? という話を今週で一切していませんでした。昨日の回と今回で、一応決着がつきます。みんな、ディアンジェロを聴いてくれー。

01. D’angelo. Devil’s Pie – A Cappella. 2008.

いきなりアカペラ版から。これは名盤『Voodoo』(2000)のデビルズ・パイをアカペラで歌ったものですね。ディアンジェロ的なものの骨格が削ぎ落とされた形であるようにも聴こえて好き。ディアンジェロ蠱毒の前座じゃ。

02. D’angelo. Shit, Damn, Motherfucker. 1995.

第一世代ネオソウルの最初の一滴になったといわれるアルバム『Brown Sugar』からたった一曲しか選ばなかった……。Brown Sugar(表題作)とだいぶ悩みましたが、一曲だけ選ぶならこれかなあ。どうですか初期ディアンジェロ。

ところで前提の話。ディアンジェロ含めて、ネオソウル第一世代は「(1950-70sの)クラシックソウル」と「(1980s以降の)ヒップホップ」とが、様式としてもセールスとしても大きく乖離している状況だったところから、その融合を目指した結果出てきたとされるジャンルです。

ただ、そういう試みって確かすでにされてましたよね? そうです、「ブラック・コンテンポラリー」とか「ニュージャック・スウィング(NJS)」とか言われていたものです。ほかにもすでにメアリJブライジなど「ヒップホップソウル」と呼ばれるような人気音楽家は出てきた。ジャンルタグ過剰ともいえる。

じゃあ改めてディアンジェロのの何が優れていたかというと、「シンガーソングライターとしての引き受けで、説得的な「綜合」の方向性を示したところなんじゃないかな、と思います。この当時のディアンジェロ評を追うと、プロデューサ先行型のブラコンやNJSをこき下ろす文言も幾つか見つかったんですね。

ヒップホップとクラシックソウル、同じ黒人系アメリカ人(※最近はアフリカ由来でないアフロアメリカンもいるとのことで呼び方はめちゃ悩みますね)から出てきた音楽でありながらどう合流していくかまだ見えなかった頃に、「うわ、この混ぜ方はディアンジェロにしかできねえわ」と思わせた所が強かった

03. D’angelo. Chicken Grease. 2000.

しかしこのディアンジェロ、なかなかの寡作お兄さんでもありました。1995年の『Brown Sugar』100万枚以上の売上のあと、5年間アルバムを作りませんでした。その間にサントラの仕事とかをしていたようですが。

エリカ・バドゥのデビュー前後の手伝いもするなど、ネオソウルブームに対する支援はしていたのですが、本陣はなかなか動き出さなかった。しかし2000年についに『Voodoo』が出た。みてくださいよ、このディアンジェロのバキバキの腹筋を!(音楽と関係ないじゃん?)(いや案外関係あるんだなこれが)

『Voodoo』は、その5年間の間にディアンジェロの音楽的な方向性に共鳴して集まってきた音楽サークルのようなものが形成されていました。ソウルクエリアンズ Soulquarians といいます。結成メンバーに水瓶座(Aquarian)が多くてそういう名前がついたとか。Voodooツアーもこの面子でゆきました。

この面子と一緒に、練りに練って行ったのが『Voodoo』になります。その作業の中で特に重要と思われるのはベーシストのピノ・パラディーノ(今もディアンジェロのサポメンとして常連、Dのこと大好き)と、ドラマーでスタジオの取り仕切りまでやってたTheオカン、クエストラブ(Dのこと大大大好き)です。

クエストラヴは当時のDのことを色々語ってるんですが、特に面白かったのは「奴はトレーナーを雇って毎日3時間セントラルパークを走り、スパーリングやウェイトをやってる。一切の糞を漏らす気配もない。そして今後も漏らさんだろう」と言ってます。「take no shit」は、隙が無くタフという意味らしい。

そして何よりヤバいのが「yoda」ですね。ディアンジェロは『Voodoo』製作にあたり、表に出す気のないSlyやP-FUNKやPrinceのコピーバンド演奏をたらふく収録して、その音源群に「ヨーダ」と名付けたそうです。なんと、ファンク史を丹念に攫う修行はジェダイへの道のりだったというのか……。[1]この辺の話は英語版WikipediaのVoodooアルバムに関する記事から、過去の参考資料を辿ってどうやらマジバナシだったことだけ拾って書きました。

そんな凄いアルバム、Voodooから一曲しか出してない、やべえな。いやこれの15年弱後に出るアルバムがやばいからさ、それに勝てんかったよな……気になる人はもうアルバム全部聴け。

ちなみにVoodooには、プリンスのバラード完コピ的な音楽 Untitled (How does it feel) も入ってるんですが、これはあまりに狙いすぎててそこまででもないかなー。いかにもディアンジェロ的なファンク解釈で歌い直しをしたプリンスカバー She’s Always In My Hair の方が好み。

04. D’angelo & The Vanguards. Sugah Daddy. 2014.

さてVoodooという偉大な2ndアルバム、ディアンジェロなりの、ネオソウルを超えて半世紀のファンク&ソウル史の再解釈を貪欲にやったツアーの最中に、なんと酒に溺れて人間として破綻してしまいます。

酒浸りになった理由は色々あるんでしょうが、上半身半裸のマッチョマンとして広告を打った余波で、あまりにセックスシンボルとして受け取られすぎたのは一因に数えられているようです。子供までできた彼女とも別れ、2005年には飲酒運転と薬物所持で逮捕されてしまいました。[2]BARKS. 2005. ディアンジェロが飲酒運転と薬物所持で逮捕. 2005-01-14記事(https://www.barks.jp/news/?id=1000004825 2021-02-15取得)

性のシンボルとして受け止められることに耐えきれなかった当たりは、(もし真だとすれば)性的であることに躊躇いがなかった、尊敬するプリンスとは大きく違う所だな……と思いますが、いつかディアンジェロの自伝とか読みたいですね。ちなみにこの時のD、激太りしてます。割れた腹筋はどこに!?

そんなディアンジェロも、少しずつ持ち直して、徐々に音楽活動を再開させてゆきます。しかしアルバムは出なかった。ある時クエストラブが「アルバム、出るよ」と漏らしてしまってDが「むかーっ」となったという話があったり(熟年カップルBLか?)、出ない方が普通くらいの受け取られ方だったらしい。

出た当時の受け取られ方は、例によってベースのピノ大好き、ハマ・オカモトさんの音楽エッセイに詳しい。mikiki.tokyo.jp/articles/-/4906 扱いがスターウォーズep7と同じって笑いますよね。しかしこの当時すでに今のBLMに繋がる大変動にDが敏感に反応してたことも伝わってきます。

05. D’angelo & The Vanguards. Betray My Heart. 2014.

そんなこんなでついに出た、14年11ヶ月ぶりの3rdアルバム『ブラックメサイア』。アフリカ系黒人の源流『ヴードゥー』からいきなりイマココの救世主!? という感じですが、Dはこういうイメージ操作も面白いですね。

ちなみにバックバンドはVoodooツアー時代のソウルクエリアンズではなく、ザ・ヴァンガーズ(前衛者・先兵というような勢い付いた意味がある)。しかもアルバムのジャケットにはちゃんとD’angelo & The Vanguards とあります。俺たちのバンドサウンドなんだぜという意思表明ですね。
このザ・ヴァンガーズにも、クエストラヴとピノ・パラディーノは続投してます。この二人ほんとDのこと好きだな!! なんかさあ、ディアンジェロの伝記映画がもし公開されたら、俺はみたいよ、まるで彼女よりもDラヴ感のあるクエストラヴと、とにかくDの為ならいつでもベース弾きにくるピノの演技を。

2000年ごろ、おそらく当時最もプリンス的な「ファンク進歩主義」(※私が最近勝手に言ってる造語です)に近かったのはDだったと思うんですよね。でも一度人生に折れて、でも再び立ち上がって約15年後にまたこんな世界水準のアルバムを出した。それって凄いことだと、聴き直し調べ直して思います。

まるで「薬物依存症から帰ってこられたスライ・ストーン」の世界線を見せてもらっているというか。才能があり、音楽史的な広い視点を持っている人間が、闇に飲まれた後に生還できたこと、また音楽を届けてくれてることの感動と有り難さがあるなあと思います。

06. D’angelo. Left & Right Pt. 1. 2013.

これは『ブラックメサイア』が出る前のライヴ演奏ですが、たぶん座組みはほぼヴァンガーズなんじゃないかな? ディアンジェロを最も伝統ファンクに近い文脈で聴くならスタジオアルバムよりラヴ演奏だよね、というのが私の持論です。

ディアンジェロのスタジオアルバムは、基本的にファンキーでありながらネオソウル的な室内感(≠密室感)に寄りがちなんですが、ライヴハウス的な音響空間で鳴るディアンジェロのネオソウル楽曲の数々は、びっっくりするくらい素直に、1990年代以降も連綿と鳴り続けてしかるべき現代ファンクそのもの。

その音は、1990年代以降から亡くなる2016年までのプリンスが、バックバンドのニューパワージェネレーションと一緒に、「バンドサウンドとしてのファンク」を練り上げていった過程とほぼ地続きですよ。

ディアンジェロがほかの第一世代ネオソウルの音と克明に違うと自分が感じるのは、この辺りかなと思ってます【要検証】【まだ個人の意見です】。他のミュージシャンは「ファンキーなネオソウルのライヴだなー」となりそうだけど、ディアンジェロのライヴはファンクを聴きに行くつもりでいけるもん。

そんな感じで、50音源近くあったSpotifyの全ディアンジェロ音源を6曲に絞り込むという、刃牙の最強トーナメントなみの難事を成し遂げました……。大変だった、長男じゃなかったら泣いてたな(?)。今日は6曲目だけでも聴いてもらって「案外ファンクじゃん」と思って貰えば成功かな〜。

いつも通り土日はお休み、月曜日からまた再開します。今日までの含めてここ2ヶ月余りのプレイリストは6曲ずつ全てこのブログから再確認できます。番組がない日はここから気になるものを選んで好きに踊り狂ってください。最近は語り部分やシェアボタン、cssも充実してきました。

脚注一覧

脚注一覧
1この辺の話は英語版WikipediaのVoodooアルバムに関する記事から、過去の参考資料を辿ってどうやらマジバナシだったことだけ拾って書きました。
2BARKS. 2005. ディアンジェロが飲酒運転と薬物所持で逮捕. 2005-01-14記事(https://www.barks.jp/news/?id=1000004825 2021-02-15取得)

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