肩こり/腰痛/背部痛を和らげるために使える器具/動作/理屈を総覧してみた

はじめに:全部試せば患部に当たる(いつかは)

 自分はこれまで、自分にできる範囲で、色々な「正解」を求めて、自分の肩こりや腰痛の原因とその方策を考えてきました。
 しかしながら、「ひとつの器具」あるいは「ひとつの方法論」を採用しさえすれば、「ひとつの効果」があるというような考えはついに採用することができませんでした。

  • それなりに効果はあるし、一定の論拠もある。
  • けれど、“常に”テキメンに効く、わけじゃない。

 そういう水準の対処の情報群が、手元にかなり溜まっています。
 その上で、自分が「肩こり(/腰痛/背部痛)に悩む人達」に対して提供できる有用な情報は何かを考えてみた結果、まずは次善の策として「それなりに効くことがわかっている器具/動作/理屈(理論)」をとりあえず全部試せるよう、情報を一箇所に集約してみる、ということをやってみようと思い立ちました。
 以下は、そうしたコンセプトのもと、2015年春の時点で、筆者(=tricken)が「効果がある」と請け負えるアイテム(用法含む)、動作(トレーニングメニュー含む)、理屈(理論的な言及を含む)に関する、それぞれの評価文です。どうぞお役立てください。

紹介するもの一覧

  • ルルド マッサージクッション
  • ▼中山式快癒器(2玉/4玉)
  • ▼テニスボール/軟式野球ボール
  • ▼バランスボール(エクササイズボール)
  • ▼自重スクワット&ウイングストレッチ
  • ▼ストレートネック対策
  • 体幹レーニン
  • ▼いわゆる“キチガイ体操”
  • ▼アシュタンガヨガ(基本型のみ)

ルルド マッサージクッション

予算:約6000円〜10000円
[asin:B002QEQ7FK:detail]
http://www.atex-net.co.jp/products/health/hl148/hl148.html (公式サイト)

 充電式で動く小さなもみ玉がクッションの内側についている、クッション兼マッサージ機というアイテムです。アテックス社の、いくぶんオシャレめな健康器具として10年近く前から*1幾つもバリエーションを増やしつつ普及してきています。小売価格は1万円を超えていることが多いですが、Amazon等通販サイトから買うとモノによっては半値以下の値段で買うことができますので、店舗ごとの保証などを気にしない限りは通販で買うことをおすすめします。

 使い方としては、「自分で好きに移動させられる」ということに着目します。いわゆる「電気按摩」のように脚に持っていってふくらはぎの裏側をほぐすもよし、仰向けに乗りかかって背中を押し込むようにやや粗っぽく刺激するもよし、首の後ろのほうに枕のように敷くことで肩周りを揉みほぐしてもらうもよし、です。「携行性の高い簡易マッサージチェア」というふうに考えれば、単品でのコストパフォーマンスの良さには他の健康器具の追随を許さないところがあります。なにより、使わない時も座布団程度にしかかさ張らないのは、据置型マッサージチェアとの決定的な違いです。
 使い方については、東急ハンズの販促ページがビジュアル的にわかりやすくおすすめですので、本記事の最後の方に参考情報として置いておきます。*2

▼中山式快癒器(2玉/4玉)

予算:約2000〜4000円

[asin:B000FQSRXG:detail]

 いきなり怪しいものを出してしまいました。一見、何の変哲もない2つ(あるいは4つ)の突起物に、非常識な値段を付けて販売しているようにしか思われなかったかもしれません。しかしこの健康器具は、実は意外と昔から名の知れたものであるそうで、開発元の方によれば、約70年近くの歴史があるそうです。
www.nakayama-shiki.co.jp
 ところでこれ、どうやって使うの? と思われる方もいるでしょう。これは仰向けになって、各々の適当な“加減”で乗っかることで使います。指圧のターゲットとなるのは、主に腰から首裏にかけての、脊椎に沿って張り付いている筋肉の凝りです。良い腕前をもつマッサージ師などに頼んでツボ押ししてもらわなければ中々手の届かないところに、自分から寝そべっていくというのが快癒器の基本的な使い方です。
「明らかにルルドの方が高性能っぽい」と思われるかもしれません。ただし、中山式快癒器にはルルドにはない長所があります。ルルドにおける「もみ玉」に当たる部分の、「鉄の突起」の位置を微調整することができることです。しかも4玉の場合は、4箇所それぞれを微妙にズラすことができます。つまり、うまく自分向けに調整すれば、脊椎に沿って左右に分かれている「凝り」に、ピンポイントで狙いをつけることができるわけです。また、ルルド(や後述するボール)より薄いつくりのため、仰向けに乗っても姿勢が安定しやすいです。
 ルルドと違い電力を使わないのも特徴です(何しろ単なる鉄の突起ですから)。これで結構効いてしまうのは、いかに私達が独りでは{腰,背中,肩,首}に適切な圧を掛けることができないかということでもあります。
 どういうふうに背中に敷くのかは、本記事の最後の方の註釈に動画を貼付しておきます。*3

▼テニスボール/軟式野球ボール

予算:約200円〜600円
[asin:B007RFSGGQ:detail]
[asin:B00476L2O6:detail]

ルルド→中山式快癒器」までは「まあ、ギリギリ健康器具だろう、たぶん」とついて来られた方も、ここではさすがにドン引きしているのではないでしょうか。はい、本当にただのボールです。硬式テニスと軟式野球、どちらにも使うことができる何の変哲もないボールです。ホームセンターのスポーツコーナーなどで格安で売っているのを買えばそれで済みます。
テニスボールなら1〜2個、軟式野球ボールなら1個、揃えてください。中山式快癒器と原理は同じです。その辺の滑りづらい床(カーペットの上など)にボールを転がして、その上に仰向けになって転がってみてください。少し厚みがあるため乗りにくいですが、中山式快癒器より安いので諦めましょう。
尻を含めた腰から、後頭部の下の方(首の付根)まで、スイスイ転がして目星をつけていけば、どこか複数箇所で呻いてしまうほどの痛みを感じるところが見つけられるはずです。その上で、見つけた患部をソフトに刺激し続けたければ硬式テニスボールを、かなりハードに圧してゆきたければ硬式野球ボールを、それぞれ選んでやってみてください。
 使用している具体的な絵面が想像しづらい方は、対応する適切な紹介動画がありますので、そちらを御覧ください(中山式快癒器の紹介と同じシリーズの方の動画です)。なお、紹介した動画にもあるように、軟式野球は固すぎて2個同時に使うことはお勧めできないのですが、公式テニスボールであれば2個同時に乗っても比較的楽に調整ができます。ですのでテニスボールを使う場合は2個同時に購入するのがお薦めです(どうせ200円くらいで揃います)。*4

※2015.05.21木 追記
その後、記事の感想を頂いた中で、「以下の本にもテニスボール・マッサージの効用が書かれている」という情報を頂きました。中身を検めてみたところ、確かにプロのトレーナーの見地から、各部位の深部を圧することによる腰痛・背部痛への効果が認められることが系統立った言葉で説明されていました。ギックリ腰を含む腰痛・坐骨神経痛等に悩まれている方に特におすすめの一冊だと思います。

[asin:4522432143:detail]

マッサージ編まとめ:共通点は「体幹の裏側にあてがう」こと

さて、{ルルド,中山式,テニス/軟式野球ボール}と3つ紹介してきましたが、実はやろうとしていることは共通しています。それは、

  • 尻(の深部)にあてがう
  • 腰(の脊椎周辺部に)あてがう
  • 背(の脊椎周辺部に)あてがう
  • 肩(の肩甲骨周辺部に)あてがう
  • 首(の脊椎周辺部に)あてがう

など、主に背中の骨である「脊椎」の左右に沿って付いている筋群(たとえば脊柱起立筋群など)に対して、ダイレクトに刺激を与えようとすることです。図示してみますと、概ね以下の解剖図の、赤線で囲んだ辺りが、マッサージの標的になる部分であるはずです。

f:id:gginc:20150503065329j:plain

 背中の凝りは、臀部(おしりの、左右の肉が付いているところ)の奥側から首裏の付け根あたりまでに分布しています(肩甲骨だけ、その骨を浮かせた形で維持する僧帽筋や後背筋等色々な筋肉があるため、脊椎から若干離れます)。どうして背中側のいろいろなところに凝りが点在しがちであるかというと、個々人が各自の生活の中で、微妙に自分の体幹(=からだの中軸にかかわる部分の筋肉群)に負荷をかけた状態で生活しているからです。
 ところが、個々人のライフスタイルが違ってくれば、上半身のどこがどの程度具体的に凝ってくるかというのは、本人でも中々気づきづらいものです。ですから、道具はこの際何でもよいですので、ぜひ以下のいずれかの順序で、自分の凝りがどのへんに集中しているか、確かめてください。ルルドでも、中山式でも、各種ボールでも、どれでも確認することができます。

  • 上から:首の裏(耳のやや後ろの方)→肩(首筋の根本)→肩(肩甲骨まわり)→背(脊椎まわり)→腰(脊椎まわり)→尻(臀部のちょっと肉が窪んだあたり)
  • 下から:→尻(臀部のちょっと肉が窪んだあたり)→腰(脊椎まわり)→背(脊椎まわり)→肩(肩甲骨まわり)→肩(首筋の根本)→首の裏(耳のやや後ろの方)

▼バランスボール(エクササイズボール)

予算:約3000円〜6000円(+空気入れ器具の費用)
[asin:B001E8OUIU:detail]

 ここからは、マッサージだけではどうにもならないものを扱ってゆきたいと思います。
 バランスボールは、1960年代前半にスイスで開発されたリハビリ用のボールで、その後1980年代になって米国圏を中心にスポーツ方面への応用範囲が広がり、今に至る製品を総称して言うものです。*5
 そして、住環境と予算が許せば、何よりもシンプルに効果的なのが、品質の良いバランスボールで日頃からストレッチすることだと、2015年05月時点での私は考えています。
「ストレッチなんて自力でもできるじゃん」というマッチョな方ももちろんいらっしゃるかと思いますが、ちょっと待ってください。「肩こり/背部痛/腰痛」に直接効くようなストレッチを実践するというのは、何の器具も前提知識もなしで、簡単にできるようなことでしょうか。
 私の実感では、単に「肩こりにはこれこれのストレッチが効果的だよ」と助言するだけでは、同じ動作をやっているつもりでも、ちょっとした(けれど致命的な)コツの違いで、個々人への効果がまったく変わってくる、という事態に何度も巡りあってきました。
実際、私自身のストレッチにも、日によってかなり効果のムラを感じます。「今日はしっかり背中が伸びるな」という日もあれば、何かしらどこかが強張っているせいで他の伸ばすべきところまでイマイチ効きを感じられず、それを放っておいているうちにまた肩こりが酷くなって……という悪循環がしばしば起こりました。
そうした事態は、もしかしたら「より優れたコーチング」や「より厳密なストレッチの知識」で、解決可能なのかもしれません。けれど、そうした知識を習熟する手間を省いて、ほとんど(といって言い過ぎなら、かなりのところまで)解決してくれるアイテムが存在します。それが、紹介したバランスボール(/エクササイズボール)です。
 とにかくこのバランスボールの優れたところは、少し身体の痛い部分を伸ばそうと姿勢を変えるだけで、簡単に「ストレッチがキマる」ということです。しかも、「よし、ストレッチをやってやろう」という意識でキマるのではありません。単にバランスボールの上に座って、ぼんやりと腰や手足をズラしているだけで、一生懸命姿勢を作ってやっていた様々なストレッチと同様か、それ以上の伸長を行うことができます。
 健康に関する習慣を続けるにあたって、「頭を使わなくてもできる」ということは非常に重要なことです。単にバランスボールに坐る習慣さえ付けてしまえば、後はどうとでもなる、とさえ言えます。教育学者で文筆家の斉藤孝は『坐る力』という妙にアツい啓蒙書*6 で、イス選びがいかに重要な知的パワーと関係するかを提唱していましたが、その意味でバランスボールは、肩こり/腰痛/背部痛に悩まされるデスクワーカーに「坐る力」を半ば勝手に提供してくれるものだと言えます。
 ただし、いくつか注意すべきこともあります。バランスボールそれ自体は、PVC(ポリ塩化ビニル樹脂)、いわゆる塩ビで出来たもので、体重への負荷にある程度耐えられるように出来ています。ただし価格帯によっては、耐久力が弱いものもあるかもしれません。その辺りでどこまで予算を削るかは、悩みどころの一つです。さらに、使用者の身長に応じて適切なボールサイズが異なります*7さらには、最初にバランスボールを膨らませる時には通常のボールとは比べ物にならないほどの空気を入れなければならず、そのための空気入れには、自転車用の空気入れとは異なる種類の、ボール入れアダプタに付け替えられる空気入れが必要な場合もあります。ここで一つ罠となっているのは、自宅に置いてある空気入れの中には、自転車のタイヤにしか対応していない洗濯バサミ型の空気入れしかないご家庭もあるだろうということです。その場合は、(バスケットボールやサッカーボールに突き刺して使えるような)変換器を付けられる、用途の広い空気入れを入手する必要があります。小売の相場は、2015年05月現在で2000円弱くらいでしょうか。もちろん、バランスボールの各種製品の中には、専用空気入れをセットで付けてくれるものもあるため、そうしたものを選んで購入するのも楽で良いでしょう。*8
 バランスボールにしばしば付属してくる説明書には、一度には試せないくらいのエクササイズメニューが書かれているものもあります。ただし、それらを全部熟すことが目標ではありません。まずは、以下の動作ができれば十分です:

  • 膝を90°曲げ、足裏を床にしっかり着けて座ってみる(※ボールの空気量は調整すること)
  • 座った状態で身体を左右にズラし、臀部の片方側だけで座った状態を維持してみる(腰周りが伸びます)
  • 左右どちらかの手を真上に挙げ(バンザイポーズ)し、手をあげてない方に真横に倒す(上半身の横が伸びます)
  • 背中を預けるように背中をつけてみる(※周囲にぶつかったり転がり落ちたりように気をつけながら行うこと)
  • 両手を胸の前に伸ばし指を組み、両手で輪っかを造った状態で、ボールを後退させて腰を真後ろにズラし、頭を手の輪っかの中に入れるように下げ、肩と背中をグンと伸ばす(腰から首までが伸びます)

どれも、体操の一貫として普通に行う動作ばかりですが、これをバランスボールの上でやるだけで、全く別の効き目が出てきます。非常におすすめです。特に最後のストレッチは、最近各所で「オフィスでの休憩用ストレッチ」として推奨されているものでもありますので*9、とりあえず今この記事を読みながらやってみるといいかもしれません。

▼自重スクワット&ウイングストレッチ

予算:0円(+必要に応じて、教本代)

 スクワットというと、どうしても「バーベル上げ」であったり「厳しい腕振り運動と共に足腰を鍛えまくる」といった、マッチョでしんどいイメージをお持ちの方が多いのではないかと思われます。
 もちろん、そうしたイメージはあまり間違いではありません。ただし、肩こり/腰痛/背部痛に効果のあるような種類のストレッチは、それとはだいぶ異なるものです。よりぶっちゃけてしまえば、健康を目指すだけに留めるのであれば、こなす回数はほとんど必要ありません。
 では、何に注目すれば、健康にいいスクワットになるのか。それは、「姿勢」です。プロのスポーツトレーナーの人の少なくない方々が、スクワットを誤った手続きで行うことは身体に対して非常に危険であることを(自重トレーニングにせよ、バーベルシャフトを利用した荷重トレーニングにせよ)指摘しています。ただし、誤りがちな部分を乗り越えて適切に行えば、スクワットほど効率的なトレーニングはないだろうとも一方で言われています。*10
 では、どういうことに気をつければよいのか。詳しくは記事註釈の最後に紹介する動画をご覧頂きたいのですが、*11 概ね以下の点に気をつければよいでしょう:

誤った(効果のない)スクワット姿勢 適切とされるスクワット姿勢|
【誤】:立っている時の足幅の開きが肩幅より狭い/広い。 【正】立っている時の足幅が概ね肩幅くらいである。爪先はほんの少しだけ外側を向く。
【誤】:しゃがんだ時、膝がつま先より出ている。 【正】膝がつま先より前に行かない。
【誤】:背中が丸まっている。 【正】背中は限界まで弓なりに反らし、アーチを描く。攣りそうなら無理はすべきではないが、「アーチを維持する」ということは忘れてはいけない。
【誤】:視線が下がっている。 【正】視線は(視線だけ)正面からやや上を向く。
【誤】:顎が前に突き出ている。 【正】顎は引いたままである。しゃがんだ時の視線につられて上を向きすぎないこと。
【誤】:深くしゃがみすぎる。 【正】膝を曲げた時、上腿が床と平行して水平になる程度で止めてよい。

 ただし、これらすべてを適切に実行して行ったスクワットは、慣れていない方にとっては、ともすれば尻もちをつきそうになるほど姿勢維持が難しく、背中がビリビリと傷みかねないものかもしれません。ですから、できれば1回から数回程度、「これは筋トレではない、背中のストレッチだ!」と発想を転換して、まずは膝と背中の姿勢維持を目指して、何度か練習をしてみることをおすすめします。
 スポーツに向けた練習であれば回数をこなしてみてもいいかもしれませんが、健康のためのスクワットであれば、3回から10回程度をゆっくり試せればそれで十分でしょう。その頃にはもう背中はほぐれているはずです。

 また、スクワットとは若干異なるマイナーな柔軟運動として、ウイングストレッチというものがあります*12。これは「肩甲骨周りの筋肉をほぐす」という目的で行われるストレッチで、以下の様な手順で行います。

  • 仰向けになり、バンザイする。両足もまっすぐ伸ばす。
  • この時、背中の肩甲骨が両方床に付いているか、確認する。
    • (もし可能であれば、バンザイした両手を誰かに支えてもらうか、何かの重りか手すりで固定しておく。)
  • 左右の肩甲骨が床についたままの状態で、片足を上げ、膝を90°程度に曲げる。
  • 膝を曲げたその片足を、伸ばしていない方の反対側の脚の方へ向けて倒す。
  • この時、脚の動きと連動して、肩甲骨が床を離れようとするので、床から離さないよう気をつける。
  • 以上の動作で、肩甲骨が強く伸長する(10〜30秒くらい維持する)
    • 肩甲骨が伸びきったところで脚が倒せなくなるので、そのあたりで止める(脚がどのあたりで止まるかは、肩甲骨の柔らかさを測る指標ともなっているため、無理にそれ以上倒そうとする必要はない。)
  • 脚を替えて、同様の動作を繰り返す。
  • 上記の脚の動作が厳しければ、両膝を立てた上で、膝頭の方向を左右に振るだけでも類似の効果が期待できる。ただし、肩甲骨を床にくっつけ続けるよう気をつけるのは変わらない。

 上記の動作をやってみると、あまりのできなさに笑えてくるかもしれませんが、最初はそれで大丈夫です。肩甲骨周辺の肩こりに悩んでいる人は、巷間で流行っている「肩甲骨はがし」系統のストレッチと併せて、このウイングストレッチを実践してみることをお薦めします。

▼ストレートネック対策

予算:0円(追加投資で参考書あり)

スマートフォンやPCを利用していると、首が下を向くことが多くなります。筆者自身がそうで、そのせいで何度も「ストレートネック」(=頭の位置が元々の位置よりやや前側に固定されてしまうことによって頸部周辺に起きる、さまざまな症状のこと)から来る頭痛・眼精疲労・肩こりに悩まされています。もちろん、これまでに紹介した各種マッサージ器具を使ったり、運動をしたりすればよいということになるのですが、「あ、ストレートネックから来る痛みかな?」と思った時にすぐにやると、即効で痛みが和らぐ方法があります。それは、「良い姿勢を作って、上を向く」ということです。
「上を向く」ではなく、どうして「良い姿勢で」という但し書きがついているのかというと、ストレートネックの症状がそもそも「首を前に突きだしていることから来るゆがみ」を原因としているため、首だけでなく上半身をまるごと一度見なおした方が、首元のゆがみを正しやすいのです。率直に言って、「姿勢の悪い状態で上を向く」より、「姿勢を正した後に上を向く」方が、首へのストレッチの効き目が断然違ってきます。
 以下、姿勢の正し方を含むストレートネックの正し方の手順を記します*13

  • 適当な椅子に坐る。椅子の板は硬めの方が望ましい(フカフカな椅子は腰が沈み込むためNG)。
    • (床に正座して行っても効果が高い。)
  • 座った状態で、両肩を上下に揺らしてみる。
  • 肩の位置がどこかで引っかかるため、上体を前後に傾けて、“一番肩がスムーズに上がるような上体の傾き”を探る。
  • ベストの位置を探り終えたところで、その姿勢を維持したまま、天井を見上げるように首を上へ傾ける。(無理のない範囲で。5秒〜20秒)
  • 同様に、そのままの姿勢で真下を向き、両手を後頭部に乗せて首を下方に引っ張り降ろす。(無理のない範囲で。5秒〜20秒)
  • 首を戻して、姿勢や肩が適切な位置にあることを確認する。
  • 肩が浮き上がらないように気をつけながら、左耳を肩につけるように真左に首を傾ける。この時、必要に応じて左手を右耳側に回りこませて引っ張り降ろす。(無理のない範囲で。5秒〜20秒)
  • 同様に、方が浮き上がらないように気をつけながら、今度は右耳を肩につけるように真右に首を傾ける。この時、必要に応じて右手を左耳側に回りこませて引っ張り降ろす。
  • 肩が浮き上がらないように気をつけながら、顔を左側に90°向け、暫く静止する。必要に応じて、右手の人差し指と中指を2本揃えて顎のあたりに添え、顎下がしっかり左肩と揃うようにグイと押しつける。(無理のない範囲で。5秒〜20秒)
  • 同様に、肩が浮き上がらないように気をつけながら、今度は顔を右側に90°向け、暫く静止する。必要に応じて、左手の人差し指と中指を2本揃えて顎のあたりに添え、顎下がしっかり左肩と揃うようにグイと押し付ける。(無理のない範囲で。5秒〜20秒)
  • これでひと通り終了。気分に応じて、適当にゆっくり首を回す。

この運動も、首後ろを中心に相当強い痺れを感じる時があるかもしれませんが、くれぐれも無理のない範囲で行なってください。“痛気持ちいい”範囲が臨界点です。

なお、座って行うストレッチについては、一時期話題になった「あべこべ体操」の動画が、(上記に紹介した手順とは若干異なるところがありますが)網羅的でおすすめです。*14

体幹レーニン

予算:600円強(推奨教材1冊のみ)
これまで紹介してきたのは色々ありましたが、「マッサージ系」から「ストレッチ系」の順で紹介してきたつもりです。
それでもダメなものはダメ、ということになったら、いよいよ軽い運動も取り入れていくことも視野に入れた方がよいかもしれません。「マッサージ系」「ストレッチ系」に続く「トレーニング系」というわけです。
ただし、ここでも重要なのは、「我々はアスリート(運動家)ではない」という大前提となります。何か運動に秀でるために筋トレやストレッチをするわけではないのです。健康に関する悩みを払拭する程度の運動量があれば十分、それ以上は不要、と考えるのは、いわゆるスポーツらしいスポーツのイメージを私達が強く持ちすぎているために難しいわけですが、それでもなお強調しすぎてもしすぎることはない点です。「我々はアスリートではない」「アスリートになるつもりもない」!

さて、「我々はアスリートではない」原則を確認したところで、非-アスリートのための流行りの筋トレ用のあんちょこ本をご紹介します。手足をムキムキにするのではなく、身体の幹の部分(肩-背中-腰-臀-腿)にかけてトレーニングをしていこうという潮流の一角を担っている、木場克己さんの本です。

[asin:4837966578:detail]

「別に腹を凹ましたいわけじゃないんですが……」「なんか表紙が怪しい……」という方、少しお待ちください。この方は、こういう本を出しているプロ選手の知識の大元になっています。

[asin:4584135576:detail]

サッカー日本代表の有名選手・長友さんのコーチングを長らく続けている方の「体幹レーニング」本なんですね。*15ただし、長友さんの名前を冠する書籍を含め、他の本はフルカラーであったり詳細であったりするわけですが、詳しすぎてトレーニングのあんちょこ本としてはややかさばります。先の『腹を凹ます〜』は、三色刷りで文庫サイズなのが、トレーニング手順を身体で確かめながら読み込むのに適しています。素人がトレーニングを続けるにあたって一番大きな障害は、「自分で手順を考えるのが面倒くさい」ということをいかに乗り越えるかにかかっています。ネットや大判の雑誌などで手順を確かめつつやってくたびれてしまったら、元も子もありません。そのためにも、トレーニング手順が書かれているマニュアルの携行性は、かなり重要な要素となるのです。

さらに『腹を凹ます〜』本の優れているところは、トレーニングの熟練度に応じて4段階の枠組を設けていることです。

  • 【レベル1】:運動不足の人や、痩せたい人、筋トレをしたらプルプルと震えてしまう段階の人が、基礎的な「内側の筋肉」*16を作る。
  • 【レベル2】:レベル1の仕上げが終わった人が、次の段階として「見た目によい筋肉」を作るための、「外側の筋肉」*17を鍛える運動。
  • 【レベル3】:すでにスポーツを良くしているアクティブな人向けのメニュー。
  • 【レベル4】:(プロスポーツ選手にも十分通用しうる)アスリート向けのメニュー。

 スポーツ関係のハウツー本において極めて重要なのが、「自分が今どの程度のトレーニングを必要としているか」の見極めです。近所のスポーツジムに月会費を払い、専属のトレーナーに判断基準を委ねられればそれほど楽なことはないのですが、誰しもジムに通えるわけではありませんし、良いトレーナーに巡り会えるとも限らないかもしれません。そうした中で、『腹を凹ます〜』本は、上掲の4レベルのうちまずレベル1から始めてどの程度できるかをセルフチェックできるように整理してくれている他、トレーニング前に共通して行うストレッチについても、過不足のない説明が書かれています。どんなに運動習慣から遠い人も、ストレッチとレベル1から無理なく始められ、レベル3〜4の高水準な運動を強要されずに済むようロードマップが調整されているこの本は、マッサージでもストレッチでもなかなか静まらない身体の凝りを運動でほぐしていくのにはちょうどよい(しかも圧倒的に安い!)手引書となっています。もし本格的にスポーツを始めるのであればこれだけでは済まない可能性もありえますが、もし健康のための筋トレを考えている方であれば、これが最初で最後の一冊として究極の選択のひとつではないかと思います。
 

▼いわゆる“キチガイ体操”

予算:0円

レーニング系としてもうひとつ、Twitterその他で一時期Buzzったものとして、肩甲骨はがしの一種としてとても楽しく実践できる「キチガイ体操」というものが @Enbos さんによって紹介されています。これは肩こり(肩甲骨周辺)や腰(左右)によく効きます。汗も掻くため、外に出ないで軽い有酸素運動ができるという複合的な効果も期待できます。ただし室外では若干おすすめしにくいところがあります。


▼アシュタンガヨガ(基本型のみ)

予算:ヨガマット代(1500円程度)+α

 最後に、かなりマニアックで激しいものを紹介しておきます。もしこの記事をお読みの方で、すでにストレッチ用やホットヨガ用にヨガマットを購入された方などがいましたら、ぜひこの方法も一度試してみて戴きたいところです。
 アシュタンガヨガとは、数あるヨガの中でも相当“キツい”部類に属するヨガで、世間一般でイメージされがちな優雅でゆったりしたヨガとはだいぶ縁遠いものです。

その中でも、「太陽礼拝」と呼ばれる基本型の動作が二種類あり、この動作をやるだけで、これまで述べてきたもののうち「ストレッチ」と「トレーニング」の両方に属する動作の大半を網羅できるだけの効率性があります。

ともあれ、御覧ください。全部で10分ほどありますが、最初の2,3分まででも十分その特徴がわかります。


毎朝10分!アシュタンガヨガレッスン〜STEP2 太陽礼拝A&B〜 - YouTube

 ……いかがでしょうか? 「面白そう!」と思った方は、最寄りのアシュタンガヨガを扱っている教室に一度だけ行ってコツを教えてもらってから、毎日10分続けてみることをオススメします。「ヤバい、無理……」と思った方は……他のものをお試しください。
 
 ところで、ヨガをする予定がなくとも、開脚ストレッチなどの座って行う柔軟運動の補助シートとして、ヨガマットは非常に便利な敷物です。滑り止めがしっかりしているため、家の床があまり柔軟体操に適しておらず悩んでいるという方は、ぜひ雑貨店(LOFT・ハンズなど)やホームセンターのスポーツコーナーでヨガマットを探してみることをお薦めいたします。

[asin:B00AZI0EBW:detail]

おわりに

 2015年05月現在、知っている限り(の中で実効性が一定度以上請け負えるもの)の紹介を行いました。
 これのうち、どれが最も肩こり/腰痛/背部痛に効くかというのは、一概に言うことはできません。人によっては、これらすべてを試してもダメかもしれません(どれかはヒットしてくれればと願っていますが)。
 なにはともあれ、色々な労働が「机に向かってするもの」になりつつある21世紀現在、身体を壊さずにデスクワークを続けることは、生きるか死ぬかの、文字通りの「死活問題」になりつつあります。その生き死にの賭けに振り回されたくない、という一心でかき集めてきたノウハウの一部を、こうして一箇所にまとめることで、少しでも痛みと苦しみが和らぐ人が出てくれればと願ってやみません。
 なお、この記事は投稿して終わりではなく、新たな発見があるたび、動的に編集を加え続けます。何年後かにもう一度見返した時、記事の項目が増えていたりすることがあるかもしれません。それは投稿した記事があやふやだったとかではなく(もちろんそうした点は究極的には否定できませんが)、この記事の最終目的が「今あるかぎりの肩こり/腰痛/背部痛対策を一箇所にまとめ続ける」という記事の趣旨に沿うために行っているものと受け取って頂ければ幸いです。

免責事項

 本記事は筆者なりの人体実験を含めて行っておりますが、大規模な実証実験ができていない以上、どこかしら誤りを含んでいる可能性があります。また、本記述を元に行った各種実践で事故が起きた場合の責任を取ることは一切できませんので、予めご了承ください。ただし、意味不文明な部分については、Twitterアカウント https://twitter.com/tricken
で応答することができます。どうぞご相談ください。

バージョン管理/追記予定メモ

  • v1.0(2015年05月03日更新)
  • 今後組入予定の項目
    • 七類誠一郎のリズムダンストレーニング(基礎部分)
    • 背部に効くストレッチ手法いくつか

註釈

*1:いつから具体的に発売したか確かな資料が発見できなかったが、2007年頃までにはすでに市場に出回っていたらしいことを確認できた。

*2:www.youtube.com

*3:
【肩こり】 家にあったもんが 効果テキメン だった! (中山式快癒器の紹介)- YouTube

*4:
硬式 テニスボール が 効いた! 【腰痛 肩こり 対策】 ボールマッサージ の 裏技(中山式快癒器の代替としての各種ボールの使い方紹介) - YouTube

*5:歴史的経緯は 英文: http://www.evolutionchair.com/sci_hist.htm などを参照。ただしこれが俗説である可能性はありうる。Wikipedia英語版にもSwiss Ball/Excersise Ballとして同様の解説あり。

*6: デスクワーク論として最高にアツい。松岡修造に匹敵するアツさ。書き手が。)[asin:4166606816:detail]

*7:たとえば、175cm程度の身長の人には直径65cmのものが推奨されていますが、155cm未満の人にはワンサイズ小さい直径55cmでなければうまくフィットしません。

*8:なお、自宅の空気入れを使って空気を入れるときは、取扱説明書に従ってやらないと結構たいへんですので、注意してください。空気を入れる量がほかのスポーツボールと比べ物にならないほど膨大であるため、ボールを作る前に酸欠になるほど疲れてしまう場合があります。運動する前に息切れしてしまうのは本末転倒ですね。

*9:「オフィス 肩こり ストレッチ」で検索。

*10:たとえば以下の書籍等。[asin:4062070324:detail]

*11:どちらもオススメです。特に真横からみた背中のアーチに注目。

【筋トレ】スクワットの正しいフォーム - YouTube

【筋トレ】スクワットの正しいやり方とよくある間違いを詳しく解説! - YouTube

*12:スポーツトレーナーである小山裕吏の著書で紹介されて有名になったストレッチです。

*13:ここで記す姿勢の正し方は、合気道の書籍の手順を一部利用しています。ただし、ストレートネックの治し方がこの本に直接同じやり方で書かれているわけではありません。それでも「姿勢」全般の矯正については非常に丁寧に解説されていますので、姿勢づくりに関心のある方は一読をお薦めします。[asin:4344418484:detail]

*14:
30秒で効く肩こり体操がスゴいと話題 - YouTube

*15:長友-木場の関係に言及した記事。 産経新聞電信版、2015年1月22日付。http://www.sponichi.co.jp/soccer/news/2015/01/22/kiji/K20150122009669940.htmlwww.sponichi.co.jp

*16:インナーマッスル

*17:アウターマッスル

持続性(sustainability)の高い「心拍計量ランニング」のすすめ

想定読者

この記事は、以下の項目に当てはまる人のために書きました。

  • (現在の己の体型を鑑みて)痩せたい。
  • (一定度痩せてるが)体力がないので鍛えたい。
  • 運動する意志があるが、続かない。
  • 運動をした次の日に気分が悪くなり続かない。
  • 暫く走っていたが、何度努力しても続かなかった。

本記事は、上記に当てはまる人のための道具と手法を提供します(提供できるかもしれません)。

「採用する理屈」「調達する道具」「実践」の3つの順序で詳しく語ってゆきます。

はじめに:10年ごしの正解

「運動はしたい……運動するべきだ……だけど、続かない。」

こういう悩みを持っている人は、多いのではないでしょうか。私も実際そうでした。中々運動が続きませんでした。
たとえば、「ランニングしなきゃ」ということを、私は10年くらい言い続けていました。けれども、腰を痛めたり、脚をくじいたり、膝を痛めたり、とにかく翌日具合が悪かったりで、いつの日かやらなくなり、罪悪感をこじらせる(自分は駄目なやつだ、怠惰だ、本当はやる気がないんだ、etc.)、ということが何度も続きました。

しかし、一方で自分は、どうすればそれを避けられるか、理論としては知っていました。けれども、予算がなかったり、方法論の一部を誤解していたりして、結局これまで一度たりとも正確にその理屈に沿って「実践」したことはありませんでした。*1

今回この記事を書いたのは、2015年の今になって初めて、(体型の変化に悩んで)本気で理屈コミで考えなおし実践した時に、ようやく「疲れない」感覚を得たためです。この「疲れない(少なくとも、疲れにくい)」やり方、持続するやり方を、おすそ分けしたいと思って、私はこの記事を書きました。

ただし、手間は若干掛かります。2015年の現在においては、「スマートフォン」「心拍計」の2つ(或いはそれを兼ね備えた高機能デバイス)が必要です*2。本記事では、2015年の春現在、このようなはてなブログを読んでいる読者が最も調達しやすいであろう「スマートフォン」と「4000円以下で調達可能な心拍計」の2つを調達することを前提として、「採用する理屈」「調達する道具」「実践」の順で方法論を述べてみます。

採用する理屈:マフェトン理論(の非-アスリート的応用)

本記事が示す方法論では、「マフェトン理論(LSDレーニング)」という理屈を、非-アスリート向けに応用します。よりぶっちゃけて言うと、元々はアスリート向けに作られた理屈を、運動を続けるほどの強い職業的動機を持たない私達向けに“下方修正”して使います
具体的な書籍は、以下を参照してください(ただし、この記事を読んで用が足りそうなら読む必要はないです)。
[asin:B004UI6ECQ:detail]

「理論」などというと大仰ですが、要するに私達が持続的に運動をするにあたり、ある発想の転換をする、そのためのルール群だ、と考えてください。*3以下に、その概要を説明します:

  • ランニングにおいて、実は「速度」はどうでもいい(速く走るのは、プロの運動選手以外にとっては……少なくとも健康の維持等の目的にとっては……全くの不要である)。
  • 走者の運動能力に応じた「心肺機能」の強度こそが、ほんとうに鍛えるべき“練度”である。
  • だから、とにかく「心肺機能」を鍛えるためにのみ、歩いたり、走ったり、エアロバイクに乗ったりしよう。他の体育的な能力については、(健康に焦点化したいのであれば)いったん忘れよう。*4
  • 「心肺機能」の強度は、「心拍数(heart-rate)」を目安とする。
  • 「心拍数」は、「心拍計(heart-rate monitor)」で測ることができる。
  • 心拍計」を身につけて、「心拍数」を測れる状態で、ゆっくり-じっくり-長く-走る(long-slow-distance training; LSD training)だけで、効果的な有酸素運動(aerobics)になる。
  • 心拍数の目安は?:分速の心拍数(beat per minutes; bpm)で、「180-年齢」を越えたらNG(これを“180-fomula”と言う*5。たとえば30歳の人の最大目標心拍数は150(=180-30)となる。
  • しかしながら、非-アスリートで、単に健康のためにやりたい私達にとって、その公式を「目指して」走るのではなく、もっと低い心拍数で走った方がいい。
  • 「180-年齢」を100%とした時、その値の80%から95%程度に目標bpmを下方修正してみよう。たとえば年齢がちょうど30歳の人の下方修正心拍数は、150bpmの80%(120bpm)から95%(142.5bpm)くらいとなる。つまり一分間の心拍数を120-143以内に抑えて走ればよい。これが非-アスリートの人にとっての“マフェトン理論的な見地からの”目標心拍数となる。*6

調達する道具

昔は、高額な専用の道具が必要でしたが、2015年現在のいまは、かなり少ない道具で、安価に始めることができます。とても良い時代になりました。

スマートフォン

iPhoneAndroid携帯のどちらのスマートフォンでも、対応するランニング用のアプリがあります。最近であれば、多くの方がスマホに移行している可能性が高く、追加の投資は不要なことが多いでしょう。ただし、マフェトン理論に最適化するためには多少の設定が必要です(後述します)。

▼RunKeeper(iOS/Android

幾つか試した中で、心拍計ハートレートモニタ)との連携の相性が堅牢なのはこのアプリでした。無料でダウンロードすることができます。

iOSアプリ

Runkeeper- GPS ランニングトラッカー

Runkeeper- GPS ランニングトラッカー

  • FitnessKeeper, Inc.
  • ヘルスケア/フィットネス
  • 無料

AndroidGoogle Play
RunKeeper ランニングもウォーキングも GPS 追跡 - Google Play のアプリ

心拍計ハートレート・モニタ)のベルト

これが、スマートフォンを持つ多くの方にとって唯一の追加投資部分となります。ひとむかし前、つまりスマートフォンがここまで普及し、ゲーミフィケーション/eスポーツ/Nike+ FuelBand/AppleWatchなど、「健康測定」が喧しくなる前は、個々人が専用の心拍計を購入しなければなりませんでした(しかも結構よく壊れました)。
しかしながら、最近はスマートフォンBluetooth連携する機能がついた、数千円で買えるベルトが出ています*7。たとえば私が使っているのは、以下のようなものです。

[asin:B00FPL6N8C:detail]

多少高いかも、と思われるかもしれませんが、スマートフォンと連携する機能をもたなかった旧世代の類似商品が軽く2倍〜3倍以上の価格で販売されていることをお確かめの上、購入をご検討ください。*8

もちろん、胸にベルトを巻き付けるのは旧式で、先に取り上げたNike+ Fuel BandやAppleWatchなど、最先端の健康器具ガジェットでは、腕の脈拍を計測することでランニングの管理が可能なものもあります。そうしたものを購入しても良い(あるいは既に所持していて活用してみたい)という方は、そちらでもRunKeeperその他のスマートフォン向けアプリで脈拍をbpm算出できるか、確かめてみても良いと思われます。以下に、幾つかの製品例を紹介しておきます(価格帯は、心拍測定機能付きを選ぶと、概ね5000〜18000円程度です)。

[asin:B00GKU17TC:detail]
Watch - Apple(日本)
[asin:B01CYC3PTY:detail]

いずれにしても、「スマートフォン(+ランニングアプリ)」「心拍計」の2つが揃えられれば、それだけでマフェトン理論の実践準備は完璧です。*9

実践:心拍計を実際に付けて運動してみる

さて、実際に入手した機器はBluetooth接続であることが多いはずです。それぞれのスマートフォンの設定を使ってペアリングしてみましょう。

その際、電池切れ等には注意が必要です。たとえばkaradabeatの製品*10は、CR2032というボタン電池が対応していますが、これは暫く使わないで機器の中に入れていても勝手に電池を消耗して、肝心なときに反応をしなくなってしまいます。(a) 節約のためにボタン電池を取り外すか、 (b) 同種のボタン電池を2~3個買いだめしておく かの、予算に合わせた対策を講じてください。

ちなみにCR2032とはこういう形のアイテムです(スーパーのレジ横、コンビニの電池売り場のところにひっそりと置いていることが多いです。)

ペアリングができれば、いよいよRunKeeperの設定です。主に音声指示の設定を最適化します。順に画面を例に説明してゆきましょう:

(1) RunKeeperトップ画面→[設定]→[音声指示]と進み、「現在の心拍数」以外の音声指示をOFFにします。「現在の心拍数」だけがONです。

f:id:gginc:20150501195222p:plain

(2-a) RunKeeperトップ画面→[設定]→[オーディオタイミング]の上の側にある、「速度」「距離」の両方にチェックを入れる。

f:id:gginc:20150501215036p:plain

(2-b) RunKeeperトップ画面→[設定]→[オーディオタイミング]の下の方、「インターバルを設定」の欄について、それぞれ「時間:1分」「距離:0.25km」に設定する(これは、音声指示で心拍数を教えてもらう頻度を最頻にするために必要です
)。

f:id:gginc:20150501215304p:plain

f:id:gginc:20150501195218p:plain

(3) ここからは、実際にアプリを使ってみないと設定できないので注意してください。試しにRunKeeperの中央メニュー「スタート」タブをタップし、「ランニングを開始」ボタンを押しましょう。この時、心拍計が正しくペアリングされていれば、以下のようなハートマーク(♥)が、数値と共に表示されているはずです。

f:id:gginc:20150501215729p:plain

(4) 最後に、このランニング中の画面の左上にあるスパナのマーク(設定ボタンです)を押し、改めて「音声指示」の選択チェックマークが「現在の心拍数」以外すべてOFFになっているかを確認します。

f:id:gginc:20150501195223p:plain

後は、この記事の序盤に説明した原則を思い出して、実行してください。実践に必要な点だけ、再度要約します:

  • ランニングにおいて、実は「速度」はどうでもいい。
  • 走者の運動能力に応じた「心肺機能」の強度こそが、ほんとうに鍛えるべき“練度”である。
  • だから、とにかく「心肺機能」を鍛えるためにのみ、歩いたり、走ったり、エアロバイクに乗ったりしよう。
  • 心拍計」を身につけて、「心拍数」を測れる状態で、ゆっくり-じっくり-長く-走るだけで、効果的な有酸素運動(aerobics)になる。
  • 心拍数の目安は?:分速の心拍数(beat per minutes; bpm)で、「180-年齢」を越えたらNG
  • ただし、その公式を「目指して」走るのではなく、もっと低い心拍数で走った方がいい。
  • 「180-年齢」を100%とした時、その値の80%から95%程度に目標bpmを下方修正してみよう。これが非-アスリートの人にとっての“マフェトン理論的な見地からの”目標心拍数となる。

なお、いきなり走るのではなく、「10分-30分-10分」とか、「15分-40分-15分」といったように、心拍数を少しずつ上げるウォームアップと、心拍数を少しずつ下げるクールダウンが良いとされています。もちろんそのあたりはスポーツ医学的に重要な話なのですが、とりあえずは雑に「180-年齢」を絶対超えないでダラダラ走る(/歩く/エアロバイクに乗る)、ということにのみ意識を集中させることを試してみてください。

おわりに:個人的実践と所感

私はこの通りに実践し、120bpmから143bpm(少し上げても147を超えない程度)に調整し、さらにiPhone&RunKeeperの音声指示の音量を近所迷惑にならない程度に調整して、ついに「毎日走っても疲れない程度の負荷」を見つけることができました。

もちろん、これ単独で成し得たというわけではなく、バランスボールによるストレッチや自分の趣味である合気道等である程度身体を慣らしながらやっています(どんなに運動不足でも、上記に示し終えたやり方が多くの人に通用するかは、今後の検証課題です)。

しかし、そうした作業を経てもなお、自分のマフェトン公式の上限である150bpmを越えての運動は、翌日以降の体調に明らかに響いていました。ですから、厳密に「マフェトン公式の80%〜95%」を貫くことは、おそらく持続的な(sustainable)有酸素運動の習慣を作っていく上で、とても大事なルールなのだと、現時点では考えています。

最低週2回から、慣れてきたら週4~5回、ぜひ、快適な有酸素運動を続けてください。一緒に減量がんばりましょう。

免責事項

本記事では、まだ以下のことを扱っていません:

  • 運動前の適切なストレッチのやりかた
  • 運動靴の履き方
  • 運動時の服装
  • 走る際にスマートフォンが邪魔にならないよう固定するコツ
  • 膝を傷めないためにどういう工夫が必要か
  • 雨天時にどうするか
  • ランニングの場合、腰を傷めない姿勢(ナンバ走りなど)
  • etc. (その他、運動実践が続かない人が躓いている要素で、筆者が気づいていないもの全部)

そのため、これらに該当する項目を考慮していないために発生する運動時の事故や障害等については、筆者は一切の責任を持つことができません。ただし、アマチュアの運動愛好家としての、趣味の範囲内での助言を行うことは可能です。気になることがありましたら、Twitterアカウント @tricken
*11
までお問い合わせください。

「習慣化する」意味を補佐する良書

(2016年07月06日追記)

以下の2つの本が、「有酸素運動を通じた心肺機能の向上」および「(脳を含む)心身の集中力・持続力の維持」に関して、べつべつの観点から示唆を与えてくれるものでした。
「上の文章で主旨はわかった、でも実践してもうまくいかないなあ」という時は、以下の二著を一読してみてください。

[asin:4140813539:detail]

有酸素運動が脳に及ぼす「好い影響」について、多彩な事例検証と脳科学論文研究から傍証しようとした文章です。内容が多岐に渡りすぎるきらいもありますが、私の記事で主軸とした「非-アスリート」という着眼点は、本書の第1章、学校体育改革においても共通する考え方が出てきます。また、第4章「不安」、第5章「うつ」、第6章「注意欠陥障害(ADHD)」に関する記録は、非-アスリート的な「健康〔フィットネス〕」の精神的側面を丁寧に検証してくれているという点で、非常に読みがいのあるところです。

村上春樹の「休息する/しない」の基準は、とても示唆に富むものですので、2箇所引用してみます。村上春樹は「アスリート」としてのマラソン・トレーニングについて語っていますが、走る習慣づくりに関しては、「非-アスリート」の側でも参考にできる内容になっていると感じます。

〔前略〕...そこでの重要的なタスクは、「これくらい走るのが当たり前のことなんだよ」と身体に申し渡すことだ。「申し渡す」というのはもちろん比喩的表現であって、いくら言葉で言いつけたところで、身体は簡単に言うことを聞いてくれない。身体はきわめて実務的なシステムなのだ。時間をかけて断続的に、具体的に苦痛を与えることによって、身体は初めてそのメッセージを認識し理解する。その結果、与えられた運動量を進んで(とは言えないかもしれないが)受容するようになる。そのあとで我々は、運動量の上限を少しずつ上げていくあ。少しずつ、少しずつ。身体がパンクしない程度に。(p.079)

 たとえ絶対的な練習量は落としても、休みは二日続けないというのが、走り込み期間における基本的ルールだ。筋肉は覚えの良い使役動物に似ている。注意深く段階的に負荷をかけていけば、筋肉はそれに耐えられるように自然に適応していく。「これだけの仕事をやってもらわなくては困るんだよ」と実例を示しながら繰り返し説得すれば、相手も「ようがす」とその要求に合わせて徐々に力をつけていく。もちろん時間はかかる。無理にこきつかえば故障してしまう。しかし時間さえかけてやれば、そして段階的にものごとを進めていけば、文句も言わず(ときどきむずかしい顔はするが)、我慢強く、それなりに従順に強度を高めていく。「これだけの作業をこなさなくちゃいけないんだ」という記憶が、反復によって筋肉にインプットされていくわけだ。我々の筋肉はずいぶん律儀なパーソナリティーの持ち主なのだ。こちらが正しい手順さえ踏めば、文句は言わない。
 しかし負荷が何日か続けてかからないでいると、「あれ、もうあそこまでがんばる必要はなくなったんだな。あーよかった」と自律的に筋肉は判断して、限界値を落としていく。筋肉だって生身の動物と同じで、できれば楽をして暮らしたいと思っているから、負荷が耐えられなくなれば、安心して記憶を解除していく。そしていったん解除された記憶をインプットしなおすには、もう一度同じ行程を頭から繰り返さなくてはならない。もちろん息抜きは必要だ。しかしレースを目前に控えたこの重要な時期には、筋肉に対してしっかりと引導を渡しておく必要がある。「これは生半可なことじゃないんだから」という曇りのないメッセージを相手に伝えておかなくてはならない。パンクしない程度に、しかし容赦のない緊張関係を維持しておかなくてはならない。(p.108-9)

*1:厳密に言えば、大学時代に合気道をしていた時に、同じ方法論と器具で走ったことはあったのですが、アマチュア・アスリートの端くれとして運動していた時と近年の運動不足状態とでは運動量がまるで異なります。そのため、運動習慣を失ってから改めて「実践」を目指して、その効力が健康維持にも使えるかどうか“実験”してみることが重要でした。にもかかわらず、筆者は過去の自分の運動水準を過大評価し過ぎて、「実践」の枠組を固めることに失敗し続けていたのでした。本記事に書かれた手法を適用してみたいと考える皆さんの中には、筆者である私と同じように、「以前はもうちょっと運動が得意だったんだけど今は全然運動習慣がない」という方がいるかもしれません。そうした方がまさに「(もう一度運動習慣を身につけようとしても)続かない」という、筆者と共通した悩みを抱えているのであれば、過去のことは一旦忘れ、心肺機能もある程度弱ったのだと認識を刷新した上で、本記事に示した手法でノンビリやり直しを測ってみてください。「今の自分」に沿った運動強度をしっかり設定できれば、求めていた持続性は得られます。心拍計量はそのために用いることのできる確実な目安の一つです。もっとも、その計量まわりの環境を整えるのが意外と手間なので、こまごまとした理屈や器具の設定が必要にはなるのですが……。

*2:3つ目のアイテムとしてスマホアプリも紹介しますが、それは有料の物体ではなく、無料で手に入るものなので、カウントしません。

*3:学術的にマフェトン氏その他の著作を直接引用していないため、あくまで筆者の理解になります(今回この記事を執筆しようとした際に初めて、関連書籍を紛失してしまっていたことに気づきました)。一定度誤謬を含む可能性があります。ご容赦ください。

*4:「心肺機能」を鍛えることが、たとえばマラソン等の高度なタフネスを要求するスポーツにおいて切実な差を生み出すという主張があり、マフェトン理論/LSDレーニングもそうした背景の中で提唱されたものだったようです。ただし、アスリートの中でもいまだに争点の分かれる話である上、非-アスリートとしてマフェトン理論を利用しようとする我々には、人類の上位層のパフォーマンスを真に左右する理屈であるかは、今は確かめなくてよいと考えます。

*5:http://philmaffetone.com/180-formula

*6:より詳しく知りたい方は、Borgの「自覚的運動強度」などについて解説されたこちらのPDF http://sports.hc.keio.ac.jp/_userdata/99kiyo-yamamoto.pdf 等を参照してください。

*7:2015年05月現在、私が動作確認したのは、iPhone5s、iOS8.0から8.3まで、RunKeeper for iOS無料版ver5.5(130)です。

*8:ここで具体的な製品を出すと営業妨害に当たるため、具体的な製品名は出しません。もちろん、このkaradabeatとさほど変わらない価格で、より多機能な心拍計は幾つか存在します。私が見つけられたbluetooth連携が可能な心拍計ベルトのうち、廉価なものがたまたまこれだったということです。

*9:走る服装、運動靴、雨天時装備、片耳イヤホン、また準備運動など、追加で吟味すべき項目を挙げると切りがありませんが、そうした項目はともすると「ガジェットを揃えるまでやらない言い訳」に容易に転じてしまうことには気をつけてください。私自身がそうでした。そうした追加論点は最後の方で「免責事項」に含めて言及しますが、とにかくこの段階では「心拍計の測定値が常に報告されてくる状態でスマホを持って運動する」ということだけが確実に成立している状態を目指せば、それで理論的にはパーフェクトな状況が整う、という前提で話を整理します。

*10:余談ですが、karadabeatには、対応するiOSアプリが存在していました。そちらにも心拍測定の機能は一応存在し、画面デザインも優れていたのですが、2015年現在は更新を停止しており、iOS8.xとの互換性がありません。またBluetooth連携の上でも障害が生じます。ハードウェアとしてはkaradabeatを採用しているのにRunKeeperを薦めた背景にはこのようなOSの更新についていけていないアプリケーションやソフトウェアが存在することが関係しています。

*11:https://twitter.com/tricken