#FalettinSouls s3e01

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  1. David Crosby. Rodriguez For A Night. 2021.
  2. Roger. Play Your Guitar, Brother Roger. 1984.
  3. Silk Sonic (Bruno Mars and Anderson .Paak). Fly As Me. 2021.
  4. fishbowl. 熱波. 2022.
  5. Blue Magic and Anita Wexler. Look Me Up. 1974.
  6. 槇原敬之. オオカミ少年. [1996] 2012.

(リスト公開:2022-09-11 | 記事公開:2022-09-15)

1. David Crosby. Rodriguez For A Night. 2021.

1941年08月14日生まれ、第二次世界大戦終結より前に生まれたDavid Crosby〔デヴィッド・クロスビー〕はThe Byrds〔ザ・バーズ〕 や Crosby, Stills, Nash and Young〔クロスビー,スティルス,ナッシュ&ヤング〕などで知られるフォーク・ロック界の大御所であり、2022年現在81歳の今なお現役のミュージシャンである。1980年代前半までの間に陥った重度のドラッグ中毒によりバンドに不和を招くなど荒れた品行が目立ったが、銃器法違反で逮捕され実刑判決を受けてからは徐々に社会復帰のきっかけが掴め、ミュージシャンとしての自己を取り戻していった。[1]このあたりの話はデヴィッド・クロスビーの自伝 Crosby, David and Carl Gottlieb. [Book] Long Time Gone: the autobiography of David Crosby. 2016. https://amzn.to/3RHfJ5G … Continue reading

この2021年の最新アルバムにも深く関わっている James Raymond〔ジェイムス・レイモンド〕は、デヴィッド・クロスビーの実の息子である。デヴィッドとは長らく生き別れていたが、彼がドラッグの後遺症に苦しんでいた1990年代半ば頃に偶然再会を果たした。息子ジェイムスは1962年生まれであるというから、デヴィッドが20歳の頃に一夜の関係を持った女性との子供だということになる。ジェイムスは父と再会を果たす前からR&B・ジャズの演奏家・作曲家として著名になっていた。その奇跡の再会の後、この For Free に至るまで、父子の協同音楽活動は続いている。

さて、今回 For Free から選んだこの曲 “Rodriguez For A Night” は、アルバム全体から見ればかなり独特なリズムを持った楽曲である。この楽曲の作曲・編曲に関わっているのが 元 Steely Dan の Donald Fagen〔ドナルド・フェイゲン〕であるというのが大きいだろう。 [2]Greene, Andy. Hear David Crosby’s New Donald Fagen-Penned Song ‘Rodriguez for a Night’; Song appears on Croz’s new LP For Free, which arrives on July 23rd. Rolling Stone. 2021-06-23. … Continue reading クロスビーはフェイゲンの大ファンであったが、楽曲を通じてのコラボレーションはこの2021年の曲が初めてとなる。

私が今回この曲を #FalettinSouls に選んだのは単に曲として好ましかったからだが、それは自分が普段聴かない David Crosby の曲に、Donald Fagen(と、R&B色を多分にもつ息子の James Laymond)の好ましいリズム感と鍵盤の音色とを耳聡く感じ取ったからかもしれない。

2. Roger. Play Your Guitar, Brother Roger. 1984.

Zapp といえば言わずとしれた1980年代を代表するファンクバンドであるが、その中心人物である Roger こと Roger Troutman〔ロジャー・トラウトマン〕のソロ活動とZappの活動とは、実のところそこまで明確な区割りが設けられているわけではない。Roger名義のソロアルバムにもあたりまえのようにZappメンバーが顔を出しているからだ。そのため、Zappを追うこととRogerのソロ作を追うことは、どちらからも「ロジャー・トラウトマンとその周辺の活動」に通じる。

とはいえ一応杓子定規に線を引いておけば、この Play Your Guitar, Brother Roger が2トラック目に収録された1984年リリースの The Saga Continues は、 Roger 名義のソロアルバム第2作となる。Zapp / Roger お得意のトークボックス [3]詳細な解説が以下の記事にある:GF Works. Talkboxとは?. n.d. https://www.gfworks.jp/talkbox/index_jp.html (2022-09-14 accessed). をここでも使いながら、全体としては比較的単純な歌詞で構成されつつ、技巧としては様々な工夫が凝らされた、ミドルテンポのギタージャズ・ファンクとなっている。個人的にはZapp / Roger の特徴をほどよく保ちながら、Zapp的なファンクのひとまずの入り口としても耳障りのいい曲ではないかと感じている。2:43のひときわ甲高いギターの鳴りが、一瞬ながらきわめて蠱惑的である。

3. Silk Sonic (Bruno Mars and Anderson .Paak). Fly As Me. 2021.

2021年、R&B・ソウルファンにとって Silk Sonic〔シルク・ソニック〕の結成とそこからの一連の活動はほとんどアイドル的熱狂と言っていいほどだった。少なくとも“メロウなソウル”にはそこまで強いコミットメントを持てていない自分にとっては、R&B系のプロ音楽家・プロ音楽批評家たちが次々とラジオで、雑誌で、Silk Sonic の素晴らしさを伝えていた。[4] … Continue reading それは2021年のあいだじゅうずっと続いていたし、何なら2022年に入っても冷めやらず、グラミー賞の四冠受賞確定[5]Warner Music Japan. 第64回グラミー賞主要2部門含む4部門受賞!. Warner Music Japan. 2022-04-04. https://wmg.jp/silksonic/news/87525/ で最高潮に達するといった調子だった。

だが、先の書きぶりからも漏れ出ているかもしれないけれど、私はこの年も、ブルーノ・マーズの「凄いのは客観的に見てよく分かるしいい曲もあるんだけど、なんだか自分の正面に来ないなあ」感(#FalettinSouls Season1: 2022-01-22 Bruno Mars 特集回 参照)を Silk Sonic にも感じていた。なぜか。彼らが参照しているといわれる70年代ソウルが好きなはずなのに、彼らが特に重視する“フィリー・ソウル”(=フィラデルフィア・ソウル)を、自分自身があまり経由していなかったからだと、今では考えている。フィリー・ソウルにどっぷりと浸かっていた人にとっては、Silk Sonic のシングルカット曲の大半(たとえば第64回グラミー賞の最優秀楽曲賞を制した Leave the Door Open や、ちょっと古めの歌謡ショウのパロディを茶目っ気たっぷりに演じたMVでも話題になった Smokin Out The Window など)は、たまらないものなのだろう。Well-made なのはわかる……わかるが……どうにも同じ盛り上がり方を共有できないことを正直に告白しておきたい。いつかハマるかもしれないことも期待しつつ。

それはさておき、そんな Silk Sonic のアルバム An Evening With Silk Sonic〔シルク・ソニックと過ごす夕べ〕にも、私好みのファンキーな曲は収録されていた。それが Tr.07収録の “777” と、今回紹介した曲である Fly As Me(Tr.03) だ。どちらも70年代ファンクだけでなく最新のヒップホップの知見も取り混ぜながら、聴きやすくも聴き込み甲斐のある仕上がりとなっている。先述紹介したような「メロウなSilk Sonicに対する盛り上がり」については蚊帳の外だった自分も、こうした明確にファンキーな曲については何とか受け取れて、ほっとしている。Bruno と一緒にやっている Anderson .Paak〔アンダーソン・パーク / アンダーソン・朴〕のエッセンスがどのように効いているのかは、彼個人のプロジェクトも聴き直して考えてみたい。

4. fishbowl. 熱波. 2022.

fishbowl〔フィッシュボウル〕は静岡県発の女性アイドルユニットで、この「熱波」が発表された2022年時点では4人組となっている。大白 桃子〔おおしろ ももこ〕、新間 いずみ〔にいま いずみ〕、久松 由依〔ひさまつ ゆい〕、木村 日音 〔きむら はるね〕[6]公式Webサイトプロフィール:https://fishbowl.jp/profile (2022-09-14 accessed). の4名が、順に主題の「ネッ・パ・パラッパッパ・パラパパパ」の出だしの「ネッ」の箇所を非・音階的に発声するところが印象的だ。また、後半の途中にいわゆる“ヒゲダンス”的なベースラインが入っている遊び心も興味を惹かれる。

fishbowl のサウンド・プロデュースを手掛けるのは静岡県出身の音楽プロデューサであるヤマモトショウ。以前ファンク重視のアイドルグループとして紹介した「フィロソフィーのダンス」の代表曲「ライク・ア・ゾンビ」等の作詞を手掛けていることを今回確認した。その他、縦ノリのリズムに面白い傾向があるばってん少女隊( #FalettinSouls s2e17 Tr.03 で紹介)にも数曲、幾つかの関わり方で楽曲提供をしている。[7] … Continue reading 先行するアイドル達にさまざまなアプローチで楽曲提供をしてきたヤマモトショウが、ついに満を持して専属のサウンド・プロデューサとして fishbowl を手掛け、このような不思議なリズム感のある楽曲――K-POP最前線をフォローしたような手慣れたファッショナブルさとEDM風の単純なリズムループの巧みな重ね合わせで攻めながら、それらを極めて効率的に周期的に破壊するような「ネッ」も挿入してくる――を送り出してきたことは、非常に面白い流れだし、次にこの座組で何が飛び出してくるのか、期待している。

ちなみに静岡県アイドルなだけあって(?)、MVの冒頭にサウナの聖地「サウナしきじ」が出てくるのだが、MVとしてなんだか「これを我々は観ていていいものなのか?」と恐ろしい気分になるので、一度観ていただきたい。

5. Blue Magic and Anita Wexler. Look Me Up. 1974.

今回の Silk Sonic のくだりでひたすらわからないと言っていた「フィリー・ソウル」、その実例として真っ先に上がってくるグループのひとつがこのBlue Magic だ。Silk Sonic の勘所をわかろうとするためにほとんど勉強のつもりで聴いたが、そこでようやく「ああ、こういう感じね」と合点のいくところがあった。50-60sソウルほど暑苦しくなく、かといってファンクやジャズのようなそこそこ速度のあるテクニックに行くでもなく、のちのAORに通じるようなメロウネスを重視しながら、高らかに歌い上げるヴォーカルの技巧は何より外せない……というようなものだと、Blue Magic を聴き通していて一気貫通的に理解できた。

とはいえフィリー・ソウルを総ざらいしたわけではまったくないので、今書いたような話の大半は誤解で埋め尽くされているかもしれない。しかしそういう聴き方の指針を自分で作って聴き始めるのは個人的にけっこう重要なことであり、許していただきたい。本来なら「生半可な理解を公共の見える場で書くのではないよ」とひとこと助言したくなる方もいらっしゃるかもしれないが、私はそういう出し惜しみが嫌いというか、できないタイプなので、見逃してほしいとしか言いようがない。

Blue Magic およびフィラデルフィア流ソウルと関わりの深い「シグマ・スタジオ」やMFSB(Mother Father Sister Brother)などは、今回語彙以上のものを拾い集められなかった。いずれもう少し系統的な聴き方が成り立ったころにまたフィリー・ソウルの話ができればと考えている。

6. 槇原敬之. オオカミ少年. [1996] 2012.

#FalettinSouls では「あまりファンクっぽくなくR&Bっぽくもないミュージシャンが案外そういう系統のものをたまに歌っている逸脱的な一曲」を飛び道具的に引いてくることが多い。今回の槇原敬之もその手の引き出しからとってきたものである。これはいわゆるニュー・ジャック・スウィング(NJS)という、1980年代ごろに興ったブラックミュージックのサブジャンルの形式に則っている曲と言える。[8]以前も Sing Like Talking. Givin’ Me All. 1993. 東京女子流. 運命. 2013. を和製NJSとして紹介した。

歌詞としては、恋する人を具体的に特定することができず、ただ「恋ができるなら真の人間たりうるのだろうか」と社会集団の中で懊悩する少年の心を歌ったものと言えるだろうか。もう少し槇原敬之ファンの読み解きを聴いてみたいと思い検索を掛けてみたが、今や個人ブログの論評というものが極めて見つけづらくなっているようで、見つからなかった。いっそTwitterで呼びかけてみたほうがよいのかもしれない。[9]Kinki … Continue reading

補:Season3について

#FalettinSouls はこれまで、2020年と2021年にそれぞれSeason1と Season2 を実施した。
前シーズンと大きく異なるのは以下の2点である。

  • Twitterでの連投を先とせず、ブログでの投稿を先とする。(Twitterでの解説はするかもしれないし、しないかもしれない。)ブログ投稿が終わるまではTwitterではプレイリスト頒布と関連ソース紹介しか行わない。
  • ブログでは一貫して敬体(です・ます)を用いず、常体(だ・である)を用いる。

このようにした理由はいくつかあるのだが、それは回が進んでから改めて説明する機会もあるだろう。ひとまず、この方が自分の“蓄積”としてより望ましいものになるはずだ、という仮説を抱えている、ということだけ先に伝えておきたい。

脚注一覧

脚注一覧
1このあたりの話はデヴィッド・クロスビーの自伝 Crosby, David and Carl Gottlieb. [Book] Long Time Gone: the autobiography of David Crosby. 2016. https://amzn.to/3RHfJ5G に詳しいという。
2Greene, Andy. Hear David Crosby’s New Donald Fagen-Penned Song ‘Rodriguez for a Night’; Song appears on Croz’s new LP For Free, which arrives on July 23rd. Rolling Stone. 2021-06-23. https://www.rollingstone.com/music/music-news/david-crosby-donald-fagen-penned-song-rodriguez-for-a-night-1188126/ (2022-09-14 accessed).
3詳細な解説が以下の記事にある:GF Works. Talkboxとは?. n.d. https://www.gfworks.jp/talkbox/index_jp.html (2022-09-14 accessed).
4NHK-FM『ソウルミュージックII』や『松尾潔のメロウな夜』、ほかR&B系を得意とする番組ではだいたい特集が組まれていたように思う。また、ブルース&ソウル・レコーズ誌でも2022年02月号が一冊まるまるSilk Sonic 特集であった。
5Warner Music Japan. 第64回グラミー賞主要2部門含む4部門受賞!. Warner Music Japan. 2022-04-04. https://wmg.jp/silksonic/news/87525/
6公式Webサイトプロフィール:https://fishbowl.jp/profile (2022-09-14 accessed).
7本人発言によれば、ばってん少女隊に対しては(2020年10月時点で)作詞」「作詞・作曲」「作詞・作曲・編曲」という複数の関わり方をしていると書かれている。https://twitter.com/yamamoto_sho/status/1321107111707770888 (2022-09-14 accessed).
8以前も Sing Like Talking. Givin’ Me All. 1993. 東京女子流. 運命. 2013. を和製NJSとして紹介した。
9Kinki Kids堂本剛や郷ひろみなどについてはTwitterでの口コミから極めて重要な情報をいただいたことがある。20〜30年来のキャリアのある音楽家についてはSNSでのデジタルリサーチも活用すべきなのだろう。