#FalettinSouls s2eX03: A Certain Ratio: “冷徹なファンク”はなぜマンチェスターからやってきたのか

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1. A Certain Ratio. Nostromo a Go Go. 1986.
2. A Certain Ratio. YoYoGrip (Long). 2020.
3. A Certain Ratio. Backs To The Wall. 1989.
4. A Certain Ratio. Lucinda. 1982.
5. A Certain Ratio. Sounds Like Something Dirty. [1985] 2019.
6. A Certain Ratio. Family. 2020.

【2021-05-28 朝】

おはようございます。今週もよくがんばった(誰に言ってるのか)。ぶじ生きて #FalettinSouls 金曜Extra回をお届けできます。今日の特集は、英国マンチェスターのフリクストン村から始まった音楽グループ “A Certain Ratio”(ア・サートゥン・レシオ)、略称ACRです。

この6曲でお届けします。今朝の今朝まで40曲くらいの候補から厳選してこれ!

解説は夕方以降。ただ昨日今日は連日でオンライン会議・読書会なので今日じゅうに解説コンプできるかわかりません。深夜から明日の午前までには! とりあえずACR音源の感想お待ちしております。単一特集したくなったくらいには、独特のファンクサウンドが集まってますよ。

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【同日 夕】

FalettinSouls 金曜単一ユニット特集回 Extra-episode も3回目となりました。今回は1977年の活動開始から40年以上のキャリアを重ねてきた、マンチェスター地域出身の[1] … Continue reading「パンク・ファンク」バンド、A Certain Ratio(ア・サートゥン・レシオ)を特集します。

1. A Certain Ratio. Nostromo a Go Go. 1986.

1曲目は1986年の曲から。A Certain Ratio はJez Kerr, Martin Moscrop, Donald Johnson などを中核メンバーとして、多くの多数メンバーと協業しながら40年以上活動を続けてきました。

さて、このA Certain Ratio (以下ACRと略す)のジャンルはなんでしょうか? 彼らは《Factory》(ファクトリー)という名物レーベルからキャリアを始めました。《Factory》といえば、いわゆる【マッドチェスター・ムーヴメント】とも呼ばれる、ポストパンク/ニューウェーヴの時代を象徴するレーベルです。[2]https://ja.wikipedia.org/wiki/マッドチェスター (2021-05-28 accessed). … Continue reading

《Factory》で名を知られたグループといえば、Joy Division, The New Order ……ほとんど「ポストパンク」の代名詞みたいなバンドですね。ではACRもパンクバンドと呼んじゃっていいのか? しかしパンクロックと聞いて期待される音とは、音の作りがだいぶ違いますよね。

今回私は、ググってACRのジャンルを引いてきました(野田2020,油納2020)。曰く、

  • インダストリアル・ファンク / Industrial Funk
  • モノクローム・ファンク / Monochrome Funk
  • ファンク・ノワール / Funk Noir
  • コールド・ファンク / Cold Funk
  • パンク・ファンク / Punk Funk

なるほど……ACRのどんな部分を表現しようとするかは伝わってきます。

つまるところACRは、1970s末から1980s前半にあって、「ポストパンクの精神と、冷たくてゴリゴリと鋼鉄めいた音色とが自然体で合流したところに具現化した、英国マンチェスター地域から提示されたファンク様式の一つ」[3] … Continue readingを演っているのだ(そしてそれを2020年まで形を変えつつ演り続けているのだ)と、そう思われていそうですね。

自分はこの中では「コールド・ファンク」「ファンク・ノワール」あたりの呼び方がcoolで好きですが、ベタに通じやすそうなのは「パンク・ファンク」「インダストリアル・ファンク」あたりでしょうか。とにかく、王道的なファンク史の手つきでは中々因数分解できなさそうな、そういう手強さがあります。

なんでこんな音ができちゃったんだ? という話を深掘りする前に、さらに実例を聴き進めてゆきましょう。

2. A Certain Ratio. YoYoGrip (Long). 2020.

2曲目はかなり悩んで入れました。というのは、この曲にはまずLong ver. と Short ver. とがあって(括弧付きでLongって書いてますからね)、さらにこれがACRの別の持ち曲2つをセルフリミックスした曲だからです。

一つ目が、Yo-Yo-Gi〔ヨヨギ〕という珍曲です。これはぜひYouTube版のニンジャスレイヤー的映像とともに見ていただきたい。

ツッコミどころは、「タイトルが代々木なのに、収録されたJR東日本の英語アナウンスは新宿の放送じゃん!」というところですね。

そしてもう一つが、2020年の新作アルバム『ACR Loco』収録の「Get A Grip」です。この曲にはBrand New Heavies から Matt Steele が参加しています。(野田2020)

つまり、Yo-Yo-Gi × Get A Grip = YoYoGrip というわけ……。そんな、そんなSoundcloudユーザが曲作りの練習を続けた結果うっかり新規に作っちゃった茶目っ気リミックスみたいな曲、作るか!?

ところがACR曲は、一曲ごとのモチーフの美点が極めて明確なので、そういうブリコラージュが功を奏するんですよね。一発ネタぽいYo-Yo-Giのドープなギター&ベースラインと、後期SlyやP-FUNK的な掘り下げのあるGet A Gripのいいとこ取り。BPMも上方修正されて別の曲になってる。YoYoGripはそういう曲です。

ACRメンバーの「生音バンドなのに、やけに #やってみた 感のあるモチーフ一発録りぽさのある曲」は、わりとあると思います「あ、この人たちはクリエイタである以前に、音をいじるのがめちゃ好きな人たちなんだな」というのが、作品を聴いてるうちに合点が行きました。YoYoGripはその象徴みたいな曲ですね。

3. A Certain Ratio. Backs To The Wall. 1989.

3曲目。インダストリアルはインダストリアルでも、ここらへんは第二期ジャネット・ジャクソンや、[4]Season1; 2020-01-20; Tr:04ワーナー契約解除後の(Gold Experienceなどに代表される)Princeの演っていたファンク[5]Season1; 2020-12-30; Tr.03にだいぶ近いですね。そう思ったので拾い上げました。

「インダストリアルファンク」や「ポストパンクにファンクを取り入れた」[6]“Manchester’s A Certain Ratio put the funk in post-punk.” from: JEFF TERICH. 2020-09-22. MANGLED AND TWISTED: AN INTERVIEW WITH A CERTAIN RATIO. TREBLE. … Continue readingとされるACRが、定説寄りのファンク史の方に近づくと、テクノやインダストリアルの音を取り入れていた当時のファンク(R&B)ミュージシャンの仕事の解像度が上がりますね。パララックスビュー!

4. A Certain Ratio. Lucinda. 1982.

4曲目。これは野田努さんも「ACRの最初の一曲目を薦めるならLucindaでしょう」という主旨のことを仰られていますが(野田 2020)、私もまったくその通り同じ意見です。これを!? 1982年に!? まじかよ!! となります(私はなりました)。

1982年にどうして英国マンチェスターでこんなにゴリゴリのファンク×インダストリアルな音楽が作れたのか、というのは、それ自体が英国ポップ音楽史の大きな論点です。

一つ言えるのは、後に「アシッド・ジャズ」運動につながる程度には、英国のクラブでディスコやファンク、ラテンの音楽が掛かっていた。このへんの事情は『UKジャズダンスヒストリー』という本で部分的に解明されていたりします。[7]マーク“スノウボーイ” コットグローヴ[著] and杉田宏樹[翻訳]. 2009.『UKジャズダンスヒストリー』 K&Bパブリッシャーズ. … Continue readingマンチェスター地域もこの波に乗ってた訳です。

そんなUK流クラブシーン(におけるディスコ・ファンク・ジャズ要素)と同時期に、UKではパンクおよびポストパンク/ニューウェイヴ/インダストリアルの運動が起きていた。そうしたシーンの風を自然体で全部受け切って煮込み料理を作ったら、1982のLucindaになった。これって凄いことじゃないですか?

5. A Certain Ratio. Sounds Like Something Dirty. [1985] 2019.

5曲目。この特集の最初の方で、ACRは最初にポストパンク運動の砦のひとつ《Factory》の元で曲を出していたと言いました。その後、《Rob’s Record》や《Soul Jazz》を経て、今は《Mute》と契約しています。

この Spotify など配信で聴ける Sounds Like Something Dirty は、初出が1985年なのですが、この曲が今配信で聴けるのは、その最新の契約先レーベル《Mute》が次々と再盤をリリースしてくれたからというのがあります。その恩恵で私達はACRのキャリア40年余を追いやすくなっていたんですね。

ところでSoul Jazzレーベルは……これはUKジャズの専門家に話してもらったほうがいい話なのですが……英国にとっては米国の「ジャズ」も「ソウル」も(そして「ファンク」も)、アメリカという“外国”から来た音楽という位置づけなんですよね。

Soul Jazz みたいなネーミングも、英国内で受容されるアメリカの音楽としてのJazzとSoul 2つのジャンルの近さを雄弁に物語っています。そういうSoul JazzがACRを見出し直したことは、ポストパンク/ニューウェイヴの文脈とは別の、UKジャズ・UKソウルの宝として再評価する機運をつくりました。

この Sounds Like Something Dirty は、ACRの曲の中では「もしかしてこれ、ジャズ・フュージョンバンドの曲かな?」と思えてしまうくらいにはエレクトリック・ジャズっぽいアレンジですね。

パンク/ソウル/ディスコ/ファンク/ラテン/テクノ/ジャズ……こうしたジャンルを、自分たちの快楽に資する音づくりのために闊達に追いかけてきたことが伝わってくるACRのアレンジの幅の広さ。これは「ちゃんと出会えてよかった」と感じているところです。

6. A Certain Ratio. Family. 2020.

最後の6曲目は2020年新作アルバムから。Cory Henry の時にも触れましたが、[8]Season2; s2eX02アフロ系の方が参加するグループで(ACRにもいらっしゃいます)、2020年に曲が発表されると、そこにはBlack Lives Matter への応答がクッキリとありますよね。

SlyやFunkadelic的なファンクの取り入れに加え、アフリカンなサウンドやパーカッションを取り入れ、私達(人類)が家族であることを歌う……文脈、そこに文脈があるね……。それでいてACRらしいインダストリアルなリズムもしっかり刻まれている。今聴かれるべき、ACRの新作だと思います。

そんなわけで、A Certain Ratio の6曲でした。今回、30曲近い仮選曲から6曲まで絞り込むのに、悲しみが止まりませんでした。ACRの曲は、「これさえ聴いておけばOK」という感じではないのだけど、「このフレーズカッコいいから1度は聴いて!」と拾っていったら全作品の半分くらいになってしまうんですよ。

パンチラインならぬ「ファンクラインが多すぎる」バンド、それがA Certain Ratioだと実感しました……。今回なんとか6曲選び切りましたが、ACRの曲はアルバム単位・再発ベスト単位で何度も聴き込んでいくことになると思います。ぜひ、みなさんもACRと懇意にしてみてください。いい曲沢山ありますよ。

さてファンク&ソウル文脈紹介番組 #FalettinSouls 、次回は2021-05-31(月) Season2 episode 06 (s2e06) です。普通の6曲選となります。お楽しみに。

▼個人的覚書: kihirohitoサウンドとニューウェーヴのグルーヴについて

今晩(今週末)A Certain Ratio の話をする予定なんだけど、A Certain Ratio は 40年前、New Order 等のいわゆる「マッドチェスター」ムーヴメント(英国マンチェスター発のポストパンク&ニューウェイブ運動)の一翼を担っていたとされるバンドなんですよね。

で、自分は2007年から『護法少女ソワカちゃん』シリーズで色んな音源を発表したさくしゃさん(kihirohito)の曲が好きなんですが、「さくしゃさんの作る楽曲の文脈がファンクど真ん中ではないのに、なんで好きなんだろうな?」とはずっと思っていて。

しかし、1970s末〜1990s前半は、狭義にはポストパンク/ニューウェイヴ/アシッドジャズの各運動があり、大きくみると「ブリットファンク」と呼べる運動があった[9]柳樂光隆. 2021-04-12. ジャイルス・ピーターソンが語る、ブリット・ファンクとUK音楽史のミッシングリンク. … Continue reading……と捉えると、さくしゃさんの曲にはニューウェイヴ経由でUKジャズ・ファンクのビートが多少入ってきてたのかもしれないな、と理解した。

これはACRではなくてkihirohito曲の解釈の話なので、#FalettinSouls の主旨からは若干外れています。ですが、当時すでにファンク&ソウルオタクであった自分が、ポストパンク/ニューウェイヴ的なサウンドの何にかっこよさを感じてきたかということの解像度は、ACRの(自分の視界の中での)発見を通じて、ちょっとだけ上がったように思います。

▼補:今回の主な参考資料

  • 野田努[序文・質問] and 坂本麻里子[質問・通訳]. 2020-09-23. マンチェスター、ポストパンク・ファンクの伝説: ア・サートゥン・レシオ/ジェズ・カー、ロング・インタヴュー. ele-king. http://www.ele-king.net/interviews/007820/ (2021-05-28 accessed).
  • 油納将志[インタビュー・文]. 2020-09-28. 「80年代初頭、僕らはジャズに行った、ラテン音楽に走ったとか叩かれたけど、結果として時代を先取りしていた」ア・サートゥン・レシオ12年ぶりの新作リリース. TURN. http://turntokyo.com/features/a-certain-ratio-interview/ (2021-05-28 accessed).

脚注一覧

脚注一覧
1Wikipedia等では良くフリクストン出身と言われるが、ACRメンバーによればそれは正確な紹介ではないらしい。ウィゼンショウかフリクストンか、はっきりとは断定できないところがある。いずれにせよ、“だいたいマンチェスターあたり”なのは違いない。
2https://ja.wikipedia.org/wiki/マッドチェスター (2021-05-28 accessed). また、2002年の映画『24アワー・パーティ・ピープル』は、《Factory》について、面白おかしい誇張も交えながら、そのレーベルのキャラクターを伝えた映画として良く話題にのぼっている。https://amzn.to/34qkrOh
3筆者なりにまとめた説明。これを仮に定義として活用するとしても、それが「ファンク・ノワール」の説明とするのか、「インダストリアル・ファンク」の説明とするのか、そのあたりは、どうも決着しそうにない。せいぜい「ACRの様式」を説明する足がかりとして使えるくらいか。
4Season1; 2020-01-20; Tr:04
5Season1; 2020-12-30; Tr.03
6“Manchester’s A Certain Ratio put the funk in post-punk.” from: JEFF TERICH. 2020-09-22. MANGLED AND TWISTED: AN INTERVIEW WITH A CERTAIN RATIO. TREBLE. https://www.treblezine.com/a-certain-ratio-interview-mangled-twisted/ (2021-05-28 accessed).
7マーク“スノウボーイ” コットグローヴ[著] and杉田宏樹[翻訳]. 2009.『UKジャズダンスヒストリー』 K&Bパブリッシャーズ. https://www.amazon.co.jp/dp/4902800136
8Season2; s2eX02
9柳樂光隆. 2021-04-12. ジャイルス・ピーターソンが語る、ブリット・ファンクとUK音楽史のミッシングリンク. RollingStone. https://rollingstonejapan.com/articles/detail/35733 (2021-05-28 accessed).

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